無為

先発隊として意気揚々として、天衣無縫な心で、俺は旅に出たはずだ。開拓し世界を変えるのは当然の結末だと確信していた。しかし現状、すべてを失っただけである。戦意は萎えた。厭戦気分が心を支配する。安ホテルの窓硝子には死相の男が映るだけ。薄暮に染まる街の下では、たぶん幸せな人もいるのだろう。寂れた街でも、それなりに築き上げた連中がいる。俺は悄然として意気消沈してるしかない。鉄火場で逆目に張り続けて、スッカラカンになった。蕭条とした世界は俺の周辺に創っただけで、同じ街に住みながら、別の風景を見る連中もいるのだ。刀の一薙ぎで生命を終えることが出来るのに、トドメだけは刺さない社会のシステムの理不尽さに懊悩する。雨露を凌ぐという課題だって、派遣村に行けばいいのかもしれない。生殺しの時間が無為に流れていくのを眺めるだけ。明日はまた這々の体でどこかの安宿にたどり着く。微動だにしない空間に焦れるだけ。この運命を嚥下しようとしても噎せ返る。まだ煩悩が残っているのだろう。過去の自分を難詰しても、元に戻って塗り替えることは出来ない。暗愚で益体もない選択をした人間は急勾配を転がり落ちる。