オッサンになると勝ち負けが確定するんで

ある程度オッサンになると、社会的に成功している人以外は、昔の友人と会ったりしないものだ。やはり俺の方が勝ちとか負けとかそういう観念があるからなのだろう。そういうのと無縁の友情はこの世の中に存在しない。
俺なんかは単に馬齢を重ねただけである。本来なら若いころに成功して財を築き上げ、ある程度オッサンになったらセミリタイアして、どこかの湖畔に別荘でも建てて、日射しに輝く湖面の美しさを楽しんでいたはずだった。しかし、そんな妄想は頓挫したのである。夢想の残り香を嗅ぎながら、脳内の少女と共に過ごすしかない。地獄の一番深い階層で瞑目し、少女が金色の髪を梳く姿をイメージできるなら、それが瞬間的で幻想的な愉楽なのである。実際の手のひらには、焼け落ちて灰褐色に煤けた空手形があるだけだ。その虚無に向き合わされると、煉獄の火炎がブラックアウトして、寒色の風景が見える。喪失したものの姿がくっきりと円環していく模様というのは、棍棒を抱えた悪鬼たちの群れよりも寒々しく、俺を絶望の目眩の中に落とすのである。これが冥府の恐ろしさなのだ。