低層

くたびれてやつれた記号で意匠を施した、濁った空間。そこに緊縛された一人の男。上には進めないのに、低い方には自動ドア。そしてふと思うのだ。実は転落しているのではなく、単に低層が辿る人生をそのまま体験しているだけなのではないかと。落下してたどり着いたのではなく、横滑りだった。地獄の一番深い階層で横に滑るというのは、重力に圧殺されそうだが、こういう累積が年老いるということなのである。可能性だけは保留されていたが、これも予定通りに消滅した。